原発温排水と地球温暖化

概要

原子力発電所は、そのメカニズム上「温排水」を排出します。この温排水は、かなり大きな熱量であるため、地球を温暖化させる可能性が気になりました。そこで、温排水と地球の温度上昇の関係を簡単なモデルで置き換え、計算を試みました。

1.はじめに

現在、地球温暖化防止の対策としてCO2排出削減が盛んに言われています。

そんな中、原子力発電所は完成後の運用時においてはCO2を排出しないため、地球温暖化防止の対策になる、と言われていわれています(*1)

火力発電は石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を燃やし、その熱エネルギーを利用して発電を行っているため、発電の過程でCO2を排出します。

一方、原子力発電は、ウラン燃料が核分裂した時に発生する熱を利用して発電しているため、太陽光発電や風力発電と同じように発電時にCO2を排出しません。原子力発電は地球温暖化防止の観点で、優れた発電方法の一つです。

電気事業連合会 原子力発電の現状

一方、原発は温暖化対策にはならないという議論もあり(*2)、その中でも、原発の温排水によって地球が温暖化するという話は直接的でわかりやすく感じます。具体的には、以下のような内容です。

もう一つの問題は「温排水」です。原発では燃料を冷やすために海水を使います。その水は温まってしまいますが、それを海に捨てています。入れたときより7度〜10度温まった状態で棄てられるため、海水温を上昇させ、排水口付近の生態系に影響を与えてしまいます。

GREENPEACE 原発が温暖化対策にならない5つの理由

これを読むと、確かに原子力発電所が排出する温排水は地球の温度を直接的に上げている、とわかります。

でも、どれぐらい地球の温度を上げているのだろうか? 無視出来る程度だろうか?それとも無視できない程だろうか?ということが気になってきました。

そこで今回、原発の温排水に着目し、温排水がどれぐらい地球温暖化に寄与するのかを試算を試みました。

2.温暖化のメカニズム

原発の温排水の出るメカニズムに関する記述を紹介します。

原子力発電所では、火力発電所と同じように蒸気の力でタービンを回して電気を作っています。

タービンを回した後の蒸気は、海水で冷やされてもとの水に戻ります。この蒸気を冷やした後の海水は、取水した時の温度より少し上昇して海に戻ります。これを「温排水」と呼んでいます。

関西電力 高浜発電所

このサイトから図を引用させていただきました。

図1 原子力発電の動作(*3)

このサイトによれば、温排水は海産物の育成などに再利用されていることがわかりました。
しかしながら、温排水が出ていることは事実であり、程度はわからないものの地球温暖化に影響を与えているとも思われます。

さて、暖かい水は比重が軽いことから上に行きやすい。よって、温排水は海の表面近くにとどまり、海面に接した空気の温度を上昇させ、その結果大気の温度を上げることになる、と考えられます。

3.試算

3-1 試算方法

今回の計算の条件は以下のとおりとします。

  • 原発からの温排水が海面の表面近くにとどまると仮定して、海水表面の温度上昇を推定します。そして、水に比べて空気の比熱容量は十分小さいことから、海水表面温度の上昇と同じだけ大気の温度が上昇すると仮定します。
  • また、温排水が海水面近くにとどまる厚さを300mmとして、温度が上昇する海水の体積を算出します。ここで、海面が波立てば温排水は深いところの海水と混じり合い、静かであれば表面近くにとどまると考えられます。実際のところはわからないので、海全体で見れば穏やかな小波のところが多いだろうと想定して、温排水が海面近くにとどまる厚さを300mmとして計算することとしました。
  • 最後に、温度上昇の起こる海水の体積、水の比熱容量、地球上の原発からの温排水熱量、これらの値から海水の温度上昇を計算します。

3-2 温排水熱量

世界中の原発の総発電量は、電気事業連合会「海外電力関連トピック情報」(*4)によれば、2021年1年間で2兆6,530億kWhということです。

またimidasの「原発温排水が海を壊す」(*5)によれば、原発の熱効率は33%ということで、67%の熱を捨ているということです。

捨てられる熱が温排水であるとすれば、温排水の熱量は発電量の約2倍であり、5兆3060億kWhということになります。

3-3 暖められる海水量の推定

地球の表面積は510,000,000平方キロメートル、このうち海面の占める割合が70%ということなので、海面の面積は、510,000,000×0.7=357,000,000平方キロメートルとなります。

温度が上昇する海水の厚さを300mmとしたので、温度が上昇する海水量は

357,000,000 平方キロメートル×300mm=1.07×10 14 立方メートルとなります。

この体積で温排水の総熱量を割り算することにより、海水1立方メートルに与えられる熱量が算出されます。

計算を行うと 1立方メートルの海水に与えられる熱量は、0.05kWh/年 となります。

3-4 海水面の温度上昇

こんどは、水1立方メートルを1℃上昇させる熱量を求めます。

水1gを1℃上げる熱量は1cal=4.2Jです。

よって1立方メートルの海水を1℃上げる熱量は 概ね 4,200,000Jとなります。

1J=2.78×10 -7 kWhなので、1立方メートルの海水を1℃上げる熱量は、

4,200,000×2.78×10 -7 =1.17 kWh/℃ です。

これと、1立方メートルの海水に与えられる熱量 0.05kWh/年 から、海水面の温度上昇は

(0.05 kWh/年)/(1.17 kWh/℃)= 0.042 ℃/年と計算されます。

5.おわりに

原子力発電所の温排水は、地球温暖化に影響を与えるレベルなのかどうか興味を持ち、簡単な試算を行ってみました。

温排水の持つ熱量が海水面の表面付近 300mmだけを温めるという仮定の下での計算ですが、年間 0.042℃/年の温度上昇に寄与するという結果となりました。

地球は、1880年から2012年の間に0.85℃気温が上昇したと(*5)ということですので、平均すると年間0.0064℃上昇していることになります。

今回の試算結果は、年間0.042℃ということで、実際の7倍の結果となりました。計算の前提条件が違っていたり、省略しすぎたところがあって、実際の結果とは一致しなかったと考えられますが、無視できないような気がします。

参考資料

(*1)電気事業連合会 原子力発電の現状

(*2)原発が温暖化対策にならない5つの理由

(*3)関西電力高浜発電所 温排水の利用について

(*4)電気事業連合会 海外電力関連トピック情報

(*5)imidas 原発温廃水が海を壊す

(*6)地球温暖化の現状